『パラリーガルは透明人間!?』  11/01 No.2


1 例えば貴方が大企業に就職したとしましょう。
 どの位の頻度で自分が就職した会社の「代表取締役社長」という肩書きを持った方に会えると思いますか?また、他の企業の「代表取締役社長」には?
 秘書課に配属されない限り、毎日会うのは困難でしょうし、もしかしたら、一生話をすることはないかもしれません。
 しかし、法律事務所に勤務すると、毎日社長(弁護士)から指示があり、大中小さまざまな会社の代表取締役社長等の肩書きを持った方ともお会いします。パラリーガル=弁護士補助職員は、受付から各部署を経由して秘書課に至るまでの全ての仕事を行います。パラリーガル程オールマイティーに仕事をこなさなければならない職業は少ないのではないかと思います。
 弁護士が専門分野を1つと決めていたとしても、その仕事を的確、迅速にこなすこと自体大変ですが、特に地方都市の弁護士は、その需要から、原則どんな仕事でもこなさなくてはなりません。破産、個人再生、任意整理等の債務整理や交通事故の依頼はあたりまえ、離婚、医療関係、土地の境界、不動産の明け渡し等の民事事件。覚せい剤に窃盗、暴行等の刑事事件の弁護から先物等の商取引における紛争等々、弁護士は、本当に地獄の日々を送っています。そして、私たちパラリーガルは、そのような過酷な状況にある弁護士の指揮・命令の下、弁護士の補助の仕事をしているのです。

2 さて、このような仕事をしていますと、人間というものは怖いもので、なんだか自分が全てを行っている気になるようです。
 担当という肩書きを与えられ、弁護士から指示を仰ぎ、弁護士の意向を伝えているのですが、依頼者と直接話しをしているのは自分。弁護士が不在であってもメールや電話で弁護士に確認をして、依頼者に弁護士からの指示を伝えているだけなのですが、自分が指示したことに依頼者が直接自分に答えてくるという錯覚に陥るのかもしれません。もちろん、きまりきったことは弁護士に確認をしなくても伝えなければなりません。そうこうしていると、依頼者は裁判所での仕事や出張で不在がちな弁護士よりも、いつも事務所に居る担当者宛に電話をかけてこられるようになります。
 依頼者は殆どが自分より年上で、自分の両親やそれ以上の年齢であり、普通では会えないような肩書きを持った方々も含まれ、そのような方々から笑顔で頭を下げられる・・このような状況が続くと、自分が弁護士とまでは行きませんが、弁護士にほど近い立場になったような錯覚に陥るようです。錯覚に陥ったパラリーガルは勝手な言動をし始め、不審に思った依頼者から弁護士宛に確認の電話が入ります。そのパラリーガルは、弁護士が急いで欲しい仕事を後回しにし、自分が急ぐと思った仕事を先にしてしまい、結局間に合わないため、本当に急ぐ仕事を弁護士がしなければならなくなります。このような勘違いをするようになったパラリーガルの天狗の鼻を折るのに、本当に苦労します。

3 パラリーガルの仕事に、主観はありません。1つの事件に対して依頼者と弁護士の方針が決まったら、弁護士から仕事の指針を示されます。弁護士の意向を読み取り、その指針に向って仕事を遂行しなければなりません。
 法的思考を駆使し、仕事を行っているのは弁護士です。私たちではありません。例えば電話を受けるのも、本来は弁護士が受けるものですが、忙しいから弁護士が自分の代わりに人を雇用して電話を取ってもらおう・・として雇用されたのが私たちパラリーガルです。ですから、その内容も、弁護士の意向に沿ったものでなければなりません。
 事件の係属中や終了後に挨拶に来られる様々な方々が、私たちの前で深々と頭を下げられます。しかし、それは私たちにではなく、私たちの後ろにいる弁護士に頭を下げているのです。パラリーガルはある時は透明人間。あるときは媒体になるのだと思ってください。
 電話や受付、接客で横柄な態度をとっていませんか?法律事務所で横柄な態度を取れるのは、弁護士と依頼者だけです。